牛丼屋でクレームに直面!?(漫画 第3話)

オイ!なんだこの牛丼は!
テメーが店長か?
牛丼に『髪の毛のトッピング』
宙を舞う牛丼
赤い血だ

目次(小説)

  1. 逃げるは恥だが
  2. 異物混入発生?
  3. カスタマーハラスメント

逃げるは恥だが

「あれ?松野君ぜんぜん食べてないね?温かい内に食べた方が美味しいよ?」

自分にだけ写る異世界に圧倒されている内に、隣の男はすでに完食しているようだった。こいつの食べるのが早すぎるのか、それとも自分が思っていた以上にトリップしてしまっていたのか。

「ごめん。ちょっと便所行ってくる」

少しでも酔いを覚ますべく、顔を洗いに席を経った。「ごゆっくり~」と能天気に返す好屋に腹が経ったが、聞こえなかったことにした。

牛丼屋の化粧室は思っていたより広く、とても清潔だった。きっとあの宇宙人みたいな店長か、キノコみたいな従業員が細目に清掃に来ているのだろう。失礼だと思うが、あのキノコが掃除中にうっかり流されてしまうのを想像して、少し吹いてしまった。すでに頭は大分さえている。だが、また同じ幻想が見えた時に、普通に食事できる自信がない。

「このまま気づかれないように帰ろうかなー・・・」

牛丼なんて久しぶりのまともな飯なのだが、困惑しているこの状態で美味しく食べれる自信がない。最悪催してしまったりなどしたら、それこそ店に迷惑がかかる。頭には撤退の二文字が浮かんでいた。

異物混入発生?

「オイ!何だこの牛丼は!店長出てこい!」

突如、聞きなれない罵声が扉の向こうから聞こえてきた。嫌な予感しかしないが、外に繋がる出口は客席側にしかないので、気づかれないよう気配を消して声のする方へ向かった。

カウンターには如何にもガラの悪い金髪の男が座っていた。男の前にはあの宇宙人顔の店長が、深々と頭を下げている。後ろからみると、これまた如何にも宇宙人ですっといった突起物がはっきり見える。うん。やっぱりまだ酔いは冷めていないようだ。

「は?テメーが店長か?この店はどこまで客を馬鹿にしてんだ!なんだそのふざけたツラは!こっちがキレてんのにヘラヘラしやがって!」

男の罵声は如何にもクレーマーといった典型的なセリフだが、俺はある単語に意識が集中した。

『ふざけたツラ』

気持ちが高騰している人なら誰でも言う単語。だが、自分に見えている宇宙人のような姿の店長は、飲食店という公の場所であるならば『ふざけたツラ』に間違いない。もしかしたら酔っているのは俺ではなく好屋のほうか、まさか店員とグルになって俺にドッキリを仕掛けているのか。

突拍子もない発想だが、目の前の幻想を否定したい自分は、真摯に謝罪をする店長を背に、クレーマーの次の言動に注視した。もし本当にだましているとしたら、俺にも謝罪してもらいたいものだ。

カスタマーハラスメント

「牛丼に『髪の毛のトッピング』なんて頼んだつもりはねえぞコラ!」

違う。そっちじゃない。

彼が発したクレームは期待していたものと違い、よくドラマや漫画で見かけるような、あるあるな『異物混入』のクレームだった。だが、飲食店での異物混入は一大事件であり、最もあってはいけない事案の一つ。『たかが髪の毛ー』と思われるが、これが調理器具の破片だったり、害虫だったりしたら、それこそお客様の健康に関わる事件に繋がってしまう。料理を提供する側は、例え髪の毛一本、チリひとつさえ商品に入らないよう、最善の注意を払わなければいけないのである。

ただ、この時はあまり外食しなかったので「そんなことで怒るなよ」といった認識しかなく、俺はクレームの内容に店長の容姿が含まれないことに消沈するだけだった。店員さんには悪いが、飯を食わずに帰れる口実ができたところで、自分はそそくさとその場を立ち去るべく出口に向かっていった。

「ふざけるのもいい加減にしやがれ!」

ひと際大きな罵声に思わず振り向いた。男の振りかぶった腕から、牛丼が勢いよく店長に向かって投げられた。

ガッ・・・・

聞きなれない鈍い音。床には牛丼の中身がぶちまけられ、宙を舞った丼は店長の真下に落ち、靴をクッションにしたことで割れずに転がった。

「あ・・・」

ひと際色白の顔から鮮血が滴り、足元の丼ぶりを赤く染めていった。

「ばっ・・・!ちゃんと避けろよクズが!二度と来るか!こんな店!」

男は一瞬たじろいいた素振りを見せたが、暴言を吐き捨てバツが悪そうにその場を去ろうとした。

目の前の光景がスローモーションになる。

ゆっくり。ゆっくり。

少しづつ大きく見える、血で真っ赤になった店長と男の背中。

そう。わかってる。

最近は人とあまり関わっていなかったから、この状態になるのは久しぶりだ。

俺は今ー・・・

心の底から怒っているようだ。

©武誰応志 / USHIYA
オリジナルWeb漫画『牛屋の店長!』