牛丼屋でバイトの体験入店(漫画 第9話)

入店しましょう!
厨房に入る前は除菌マットで靴を洗う
店内風景
いらっしゃいませ!

目次(小説)

  1. 牛丼屋の制服を着てみた
  2. 牛丼屋の厨房に入る前の準備
  3. 従業員視点での店内風景

牛丼屋の制服を着てみた

普段エプロンなどしないので、左肩のフックに紐を通すのに苦労したが、最後に腰の紐をちょうちょ結びしてようやく制服を着ることができた。着なれるまで、エプロンを着る時間も考慮して出勤したほうがいいかもしれない。姿見に写る制服姿の自分は、気合いの入り過ぎた別人のように見えて、少し恥ずかしかった。

「おお!サイズぴったりのようで良かった。それでは私も着替えますので。」

更衣室を出ると、自分の制服を持って着替えの準備をしている店長が待っていた。自分が着替えるのに戸惑っていたせいで、余計な時間を使わせてしまったようだ。

「変身!」

全く予想もしていなかった掛け声とともに、店長は制服姿になった。それと同時にたなびいていた後ろ髪の長髪も、どこかに収納された。

「更衣室使ってください!」

思わず声が出た。本日二度目だ。

俺の意見は聞こえなかったのか、店長はいつものニコニコ笑顔で事務所を飛び出していた。気のせいかもしれないが、いつも店内で見ている笑顔より、少し楽しそうに見えた。

牛丼屋の厨房に入る前の準備

「ストップ!」

勢いよくドアを事務所のドアを空けた店長だが、下履きに履き替えるところで静止をかけられた。右手にもっているのは、よくカーペットの髪をとる時に使われているコロコロだ。正確にはカーペットクリーナーというらしい。

「髪やホコリが制服についているかもしれませんからね。入店前は必ずこれで、肩や背中のゴミをとってください。」

一通りコロコロしたあと、階段を降り店内に入った所で、『スタッフオンリー』の棚を空けて、調理場専用の靴に履き替える。後で知るが、これは『ラブコップ』と呼ばれる調理場専用の靴で、耐熱性が強く高温の油が落ちても火傷を防ぐことができる優れモノなんだとか。

そのラブコップも厨房に入る前に消毒液の入ったマットで足踏みして除菌する。これはよくテレビとかで工場内を見学する時のと同じだ。それほど厨房内も清潔にしておかないといけないということだろう。

そして手洗い。石鹸を付けて肘まであらう。小さいブラシは爪の間を洗うブラシ。もちろんこれも使って洗う。最後に消毒スプレーを両手に満遍なくつけて完了。

「さあ!入店です!」

厨房のすぐそこから客席が見える。途端、自分の心拍が早くなるのを感じた。

従業員視点での店内風景

目の前に広がるのはよく見た風景のはずだった。ただ、今自分が立っているのはU字型のカウンターテーブルの中央。基本みんな食事をとっているので、視線は下を向いているが、何人かの人がこちらに目を向けた。

そう言えば、人前に出てしゃべるのは何年ぶりだろう?不意に中学校の時にスピーチに失敗して大恥をかいた記憶が蘇る。目の前が真っ白になる。

「すみません。やっぱり俺・・・」

言いかけたところで、肩に大きな手がかけられた。

「あなたなら大丈夫よ」

何の変哲もない言葉。何の根拠もない言葉。でも、一番欲しかった言葉。

「い・・・いらっしゃいませ!」

俺は思わず大きな声で、接客の定番セリフを叫んでいた。そう、ここから俺の牛丼屋生活の第二章が始まー

「よ!気合い入ってるね!新人君!」

余韻に浸る前にものすごい勢いで背中を叩かれた。

©武誰応志 / USHIYA
オリジナルWeb漫画『牛屋の店長!』