牛丼屋の熟練の接客を学ぶ(漫画 第16話)

スポンジは左手で!
いつの間にこんなに牛丼だした
ピーク時に発動する接客術
質量のある残像

目次(小説)

  1. 牛丼屋の昼ピークの洗い場は減らない?
  2. 牛丼屋の満席時の接客は経験がものを言う
  3. 牛丼屋の熟練の接客術は人間離れしている

牛丼屋の昼ピークの洗い場は減らない?

体験入店の時の悪夢再び。目の前にはおびただしい数の洗い物の山。だが、牛丼屋のアルバイトを始めたあの時の俺とは違う。

「スポンジは、左手で!」

トレー側に丼を持ち、最短ルートで食器をあらう。逆の手で洗う違和感もなくなり、洗うスピードも格段に速くなったはず。こんな洗い物の山もあっと言う間になくなー・・・・らない!むしろ増えている!?洗い場に運ばれる丼の山は、最善・最短・最速で洗っても一向に減る気配がなかった。

ここで、一つの疑問が脳裏によぎった。

「いつの間にこの量の牛丼が出たんだ?」

牛丼屋の満席時の接客は経験がものを言う

客席の方に目を向けると、全席に牛丼は提供され、すでに席を離れる人もちらほらいた。

「お先にお待ち一名のお客様、こちらのお席へどうぞ」

そう店長が声をかけると、食器を片付けると同時にテーブルを拭き、流れる動きで次々とお客様を誘導していく。食券を受け取り、厨房に戻ると同時に、2・3人前の食器を片付け、用意された牛丼を持って客席に戻る。全く無駄のない動きにもだが、あれだけの数のオーダーを伝票も取らず、完璧に覚えている記憶力にも驚いた。

牛屋には、牛丼だけでなく、カレーや焼肉やハンバーグ定食といった商品もある。牛丼だって、並~特盛といったサイズだけでなく、ツユダク・ネギダクといっかカスタマイズから、卵・キムチ・チーズといったトッピングもある。

それだけじゃない。食べ終わった人から次々に席を交代していくので、提供する順番だってバラバラのはずなのに、一回も間違えることなく、正確に順番通り商品を提供している。(定食などの時間がかかる商品の場合は、必ず「提供が前後します」と伝えている)

「これが、熟練者の接客か・・・」

店内を見渡しイメージトレーニングをするものの、3人まででオーダーを忘れて挫折した。

さらにここで、もう一つの疑問が脳裏をよぎった。

「数合わなくないか?」

牛丼屋の熟練の接客術は人間離れしている

店長が客席から戻ってくる時、必ず食べ終わった食器を持って帰ってくる。これは、食器を重ねてくるから、何人前のでも問題はない。

問題は提供する商品の数だ。厨房を見ると、4人前の商品が用意されている。お盆にのっているので、一回運べる量は片手で持っても2つまでだ。

しかし、店長が客席から戻ってくる前に、4人前全てが運ばれている。数多の上の乗せたとしても、3人前が限界のはずだ。この計算だと、今客席には店長が二人以上いる計算になる。

「牛丼並盛ツユダクお待たせしました!」

俺は疑いを晴らすべく、店長の声がする店内の方へ目を向けた。

「牛丼並盛一丁ツユダクありがとうございます!」

「カレーの大盛お待たせいたしました!」

「大変お待たせいたしました。焼肉定食ライス大盛です!」

「牛丼豚汁セットお待たせしました!」

「カウンターテーブル4席、下げ善お願いします」

「了解!4名様こちらのお席どうぞ!」

二人どころじゃなかった。

「今日も出たわね・・・。ピーク時のみ発動する店長の接客術『質量のある残像(ア・ロットオブ・スマイル)』」

違う。残像ってそういう使い方じゃない。明らかに個々で別の動きしてるし。さっきハイタッチしてたし。

「一人前と認められたかったら、このくらいできないとね!」

店内は無数に増えた店長、目の前にはどや顔のアルバイトの先輩と、「私にもできます」と言わんばかりに数を増やしたキノコ。

「俺、いらなくね?」

最後に、一番考えたくない疑問が浮かんでしまった。牛丼屋のアルバイトは選ばれた人しかできないということか・・・

©武誰応志 / USHIYA
オリジナルWeb漫画『牛屋の店長!』