バイトから店長へ 牛丼屋でキャリアアップ

長い間、お世話になりました
疑問点など聞いちゃって
大学を中退して店長に
牛屋の店長になる方法

目次(小説)

  1. アルバイトを辞める時には1ヶ月前に申請を
  2. 休憩時間のコミュニケーションの大切さ
  3. アルバイトから店長になるには?

アルバイトを辞める時には1ヶ月前に申請を

「ごねんなさい。店長。私も今月いっぱいでアルバイト辞めます」

そして突然の爆弾発言。なんと店長に続き、杉さんまでも牛屋を離れるとのことだった。杉さんの話によれば、先日開催されたダンスの大会で優秀な結果が残せたことで、プロダクションとの契約が決まり、来月から海外でレッスンを受けることになったというとんでも展開。彼女は着実にプロのダンサーになるという夢への階段を進み始めているのである。

「長い間、お世話になりました。私があっちに行ってる間に、浮気とかしてたら許しませんからね♪」

冗談とも本気ともとれる別れのあいさつ。彼女の頬を伝う大粒の涙から、きっと後者なのだろう。

「応援しています。がんばってきてくださいね。お帰りを心からお待ちしております」

「よっしゃー!言質とったあ!今待ってる言いました?言いましたよね!帰ったら即結婚てことでいいですよね?ハイ!OK!」

よし。これでこそ杉さんだ。数日後、店長より先に彼女はウシハマ店を去っていった。その日、俺の中である一つの決心が固まった。

休憩時間のコミュニケーションの大切さ

「松野さん、何か困ってることはありませんか?」

店長はよく、休憩時間が一緒になった時や、事務所で入店前の準備をしている時この会話を切り出してくる。店内の私語は原則禁止なので、こういったお客様のいないフリーの時間に、従業員の人とコミュニケーションを取ることが仕事を円滑に進める上で大切なことなんだとか。

ほんの少しの摩擦でも、我慢して黙っていると、それが積み重なって気づいた時には修復できない状態になってしまうらしい。その頃の俺はタケダ店長に頼るといったことが、それ自体が申し訳ない気がしたので「特にないです」と切り替えしていた。だが、今日は俺の方から声をかけてみた。

「店長、ちょっと相談があるんですが、お時間ありますか?」

いつもの固定の笑顔にさらに『パアッ』と効果音がつくような表情で「もちろん!」と答えてくれた店長。こんなに喜ぶんだったら、もっと沢山相談すればよかったと後悔した。

「私がこの店舗にくるのも今日が最後ですからね。聞き逃しがないよう、疑問点がありましたら全部聞いてください」

そう。今日が店長と一緒に働ける最終日。

だからー

これだけは今日話さないといけない。

「俺、大学中退して、牛屋の店長になろうと思います」

アルバイトから店長になるには?

その場の空気が凍り付くのを肌に感じながら、俺は話すのを続けた。今から話すのは自分の身の上話だ。聞いて誰も得しない、むしろ聞いたことで「うぜえヤツ」認定されて次の日から決まづくなるパターンだ。経験はある。だが、もう明日から合わない店長に、最後に甘えさせてもらった。

自分がずっと教師を目指していたこと。大学受験に失敗して、教員の夢が絶たれたこと。ずっと、希望がもてず悶々とした生活を送っていたこと。そして、牛屋で働くことで救われたことー。

「俺の夢は、店長ー・・・タケダさんのような店長になることです。俺に牛屋の店長になる方法を教えてください」

企業説明会とかエントリーシートとかすっとばした、世間知らずの俺がいた。

(C)たけだおうし / USHIYA
オリジナルWeb漫画『牛屋の店長!』