店長の異動事情 – 牛丼屋の店舗運営
「店長の異動事情 ? 牛丼屋の店舗運営:第二十七話」「バイトから店長へ 牛丼屋でキャリアアップ:第二十八話」を動画で見る
目次(小説)
牛丼屋の仕事は流れるようにテンポ良く
三月一日ー。
「牛丼並盛三丁ありがとうございます!並盛三丁お待たせしました!」
「焼肉定食間もなくです!豚汁の用意お願いします」
クイックメニューの牛丼を出した後、即座に次のグリドルメニューに取り掛かる。
その前に追加注文のあった『豚汁』の具をレンジに入れ、焼肉の盛付けと同時に提供出来るよう準備する。食券とポスレジに表示されている商品の確認をして、次のメニューの準備に取り掛かる。
昼ピークは右往左往している接客者の姿が目立つので、調理の方が楽だと思われがちだが、調理する方も如何に短時間にテンポ良く調理するか頭をフル回転しながら動いているので、こっちはこっちで大変な仕事なのである。
調理の仕事を任された頃は、途中でご飯の補充がなくなりそうになったり、グリドルに時間を掛け過ぎて、他のメニューの提供が遅れてしまったりと、失敗続きではあったが、数ヶ月たった今ではお手の物である。
「お!調子いいねえ!出来る人っぽくて、ちょっと格好いいよ♪」
接客中の杉さんからの不意な言葉にドキリとさせられるも、「店長の一憶分の一」という小学生のような付け足された一言で冷静さを取り戻す。アルバイトすれば彼女が出来るとか、もうきっと都市伝説なんだろう。
「お話し中、申し訳ありません。仕事あがりにちょっとお時間よろしいでしょうか?」
昼ピークがおわり、杉さんと補充の確認をしていた時、神妙な面持ちでマッシュが話しかけてきた。店長と同じく顔が固定されていて、表情に変化はないのだが、長く働いているとその微妙な雰囲気で心情がわかるようになってくる。
「何?ナニ?仕事あがりに話って!やっぱりアレ?恋バナ?ついに噂のあの娘とゴールイン?」
異様にくいつく杉さんを見て、『恋バナ』の信憑性が急上昇する。ちょっと待て!いつの間に?やっぱり伝説は本当だったのか?まあマッシュ事態が都市伝説の具現化みたいなものだが。この際、都市伝説でも何でもいい。彼女の友達を紹介してください。俺にも幸せのおすそ分けを!
「いえー・・・お話は店長からなのでー・・・、それでは失礼します」
淡い期待を裏切られ、そのまま生きる都市伝説は客席へと戻っていった。この時はまだ、マッシュの恋バナ以上にショックな発言を聞かされるとは、思いもよらなかった。
仕事あがりの事務所でのミーティング
店舗の仕事を、店長の残像と交代し、俺と杉さんは事務所へと移動した。『店長の残像と交代』とか普通に言ってしまうところが、牛屋に染まってきた自分を自覚する。
「仕事あがりに呼び止めてすみません。どうぞお座りください」
事務所中央のテーブルの前で、すでに店長が待っていた。俺と杉さんは言われるがまま、店長を対面にしてパイス椅子に腰かけた。
「何かな?ついに私との婚約発表かな?」
だったら、杉さんもあっちに座るだろ?とか、となりでコソコソ話している杉さんに心でツッコミを入れるも、やはりマッシュと同じく神妙な面持ちの店長から、ピリリとした空気が流れるのを感じた。
「異動がきまりました。今月いっぱいでウシハマ店を離れます。来月から別の店長がこられますので、今後はその方のー・・・」
予想外の言葉に頭が真っ白になり、店長の言葉が途中から聞こえなくなっっていた。
牛丼屋の店長には異動がある
途中から意識を取り戻し、注意深く店長の言葉を一つ一つ整理していった。牛屋は牛丼チェーン店であり、店長を含む社員には、様々な環境での店舗を経験する必要があり、定期的に『異動』が発生する。異動は本人の希望でされる場合もあるが、だいたいが本社からの人事異動の発表の際に決定される。
タケダ店長はこの牛屋ウシハマ店に配属されてすでに数年が経過しているので、異動の通達があるのは不思議ではない。でも、どうしてこのタイミングでー・・・
「やだー・・・店長がいなくなっちゃうなんて、絶対にいや!」
隣で杉さんが目に涙を浮かびながら叫び出した。当然だろう。杉さんは自他認める店長大好き人間。突然の異動に納得できるわけがない。悲しいことに、俺は異性と付き合ったことはないし、特別好意を寄せた人もいないので、この別れがどれほどショックなことか実感できない。
ただ、肩でむせび泣く彼女を哀れに見るしかできない自分が情けなく思う。こんな時、優しい声でもかけれれば、モテオ君の仲間入りできるんだろうがー・・・
「なーんちゃって♪騙された?駄目ですよ!店長!そこは優しく抱いて慰めてくれなきゃ!」
はい。騙されました。
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