牛丼屋のシフトの引継ぎ作業(漫画 第21話)

飲食業は夜でも「おはようございます」
新しい深夜メンバー
引継ぎ完了
夜でも昼ピークなみに混んでる

目次(小説)

  1. 牛丼屋のシフトの引継ぎ作業
  2. カウンターセットは常に清潔に
  3. 牛丼屋は深夜にもピークの時間帯がある

牛丼屋のシフトの引継ぎ作業

PM8:50-。

「よし!シンクの洗い物も全部おわったし、これで引継ぎ作業は完了かな?」

今日はPM5:00~9:00までの夕勤のシフトだった。

夕方の時間帯は、PM7:00頃から夕飯を食べにくるお客様で店は賑わうが、平日の昼ピーク程の混雑はなく、比較的に楽な時間帯だ。とは言っても、それでもボーっとできる時間は1分たりともなく、接客の合間に洗い物をしたり『補充』をしたりと常に何かどうか作業をしている。

補充とは、客席にあるドレッシングや紅生姜などのカウンターセットがなくなってしまう前に、常に一定の量になるよう、その名の通り補充する作業だ。補充する項目はいくつかある。

カウンターセット(接客者)

  • 紅生姜
  • 紙ナプキン
  • 焼肉のタレ(3種類)
  • ドレッシング(2種類)

調理補助のストック(接客者)

  • 生野菜サラダ
  • 豚汁用の具材

調理用の具材(調理者)

  • 牛丼用の肉煮
  • 焼肉用の肉(解凍)
  • 定食用の生野菜
  • タレなどの調味料

接客・調理といった商品に関するものだけでなく、テイクアウト用の容器や割り箸、洗い場の洗剤も切らさないよう補充が必要だ。

テイクアウト(接客者)

  • 弁当容器
  • カトラリー(割り箸・スプーンなど)

洗い場(接客者)

  • 食器用洗剤
  • 洗い用石鹸

夕勤(17-21or18-22)から夜勤(21-6or22-7)に変わる時は、次のシフトの人が滞りなく作業が進められるよう、これらの補充を満タンにするのが鉄則だ。それ以外にも、洗い場は食器を全て洗うだけでなく、シンクにたまった汚れた水や、側溝にたまった生ごみ等を捨て綺麗な状態にしておく。

生ごみの処理はお客様が多い時間帯は避けて、生ごみがお客様に見えないよう、ポリバケツの位置に注意して、自分の背中で壁をつくるようにして捨てなくてはならない。引継ぎ時はこれら全てを終わらせなくてはならないので、手が空いた時に少しづつ取り掛からないと全然間に合わないので、牛丼屋の仕事中に暇な時間などないのだ。

俺も最初の頃は接客を回すのでいっぱいいっぱいで補充が間に合わず、次のシフトの人に迷惑をかけてばっかりいたのだが、最近ではなんとか時間ギリギリではあるが間に合うようになってきた。次のシフトといっても、店長か杉さんだけだがー

「おはようございます。交代します。」

後ろから聞きなれない人の声が聞こえた。

カウンターセットは常に清潔に

『夜に「おはよいございます」?』と思われるかもしれないが、実は飲食業では朝だけでなく昼も夜もあいさつは「おはようございます」だ。これは所謂業界用語で、「お早い時間からー」とシフト交代時に前に働いていた人をねぎらったあいさつらしい。だが問題はそこではない。

「マッシュがイケメンになっている!?」

そう、そこには切れ長の目でモデルのように手足の長いマッシュの新形態が立っていた。

「あ、松野さんは初めてお会いするんでしたね。こちら深夜メンバーの吉大(よしひろし)さんです。まだ入って日も浅いので、わからないことがあったら教えてあげてくださいね」

違った。このイケメンは本物の人間のようだ。隣で無菌(マッチョなマッシュ)がヤレヤレといった顔でこちらを見ていた。そうゆうところだよチクショウ。

何はともあれ、ついに俺にもバイトの後輩ができたわけだ。高校生活は勉強に明け暮れて、生徒会も部活もやっていなかったので、先輩・後輩の付き合いはなかったからこの関係は懐かしい。最近は余裕をもって仕事を出来るようになってきたし、ここはいっちょ頼れる先輩アピールをしてあげようじゃないか。

「ちょっと質問いいですか?パイセン」

喜んで!とばかり向かうも、カウンター前には怪訝そうな目でドレッシングの容器を睨みつける後輩がいた。

「なんでこの容器、ベッタベタなんですか?これじゃ、お客様が持った時手が汚れるじゃないですか」

後輩ちゃんは手持ちの紙ナプキンで汚れを拭きながら、目線を合わせずに淡々と語りはじめた。

「それに厨房にあるお盆。あれ、これから使うやつですよね?所々汚れが残ってるのにそのまま使う気ですか?」

次から次へされる指摘に俺はただ言葉を失ってしまった。

「はあ、これでよく『引継ぎ作業完了!』とか言えますね?もういいです。自分が全部綺麗にしておくんでパイセンはあがってください。お疲れ様でした」

大きな溜息をつかれた後、客席に向かう背中を見送った後、俺は悶々とした気持ちでタイムカードを切り、二階の事務所に戻った。事務所に辿り着いたあと、重大なことに気が付いた。

「従食たのみ忘れたー・・・」

牛丼屋は深夜にもピークの時間帯がある

帽子とエプロンをクリーニング配送用のボックスに叩き入れると、ふつふつと怒りが湧き上がってきた。牛丼屋の仕事は忙しい。ちょっと汚れが残っていたって、仕方ないじゃないか。

吉大とか言ったか。漢字にしたら『大吉』と間違えそうだ。何も知らない素人に、ミスを指摘されたのが心底くやしかった。こんなに頭にきたのは、初めて牛屋に訪れた時のヤンキー以来ー・・・と、過去の怒りを思い出すところで、何か引っ掛かるものを感じた。

あのムカつく横顔ー・・・、髪型が変わって眼鏡をかけていて気が付かなかったが、アイツは間違いなく、店長に丼ぶりをぶつけた男だった。なぜそんなヤツが、牛屋でバイトをー・・・いや、そんなヤツがアルバイトを希望する理由は簡単だ。

きっとアイツは、アルバイトに乗じて厨房で迷惑行為を行って、この店の評判を悪くさせるつもりだ。近年SNSで度々話題になっているあの迷惑行為を、この店で実行するつもりなんだ。俺の怒りは頂点に達した。絶対にそんなことはさせない。

ここで迷惑行為をされて店が営業停止になったら、せっかく見つけた俺の居場所がなくなってしまう。俺は事務所を飛び出し、店の外からヤツの暴挙を未然に防ぐため、寒空の下で監視することにした。店の前を通り過ぎる人の目も冷ややかだった。

打って変わって店内は賑やかだった。昼ピークとまではいかないが、店内は満席で大勢のお客様が入店していた。客層は仕事帰りのサラリーマンから、学生のような若い人まで様々だ。あとに聞くがこれは終電前ピークで、電車が止まってしまう前に駆け込んでくるお客様が来る時間帯らしい。

まずい。こんなに忙しかったら、厨房の様子も見づらくアイツが陰で何かしていても見つけられないー・・・監視していることが見つからないよう、覗き込むように店の中をみわたしていると

「いらっしゃいませ!こんばんは!」

また聞きなれない男の声が店内から聞こえた。

©武誰応志 / USHIYA
オリジナルWeb漫画『牛屋の店長!』