牛丼屋の弁当をお持ち帰り(テイクアウト)

みたらし団子っぽいですねどね
ごちそうさん
お弁当にしました
私と一緒ですね

目次(小説)

  1. またのご来店をお持ちしております
  2. 「ごちそうさま」が聞きたくて
  3. 牛丼屋のお持ち帰り弁当

またのご来店をお持ちしております

「頭に毛が生えるアドバイスをもらってたんです」

ひと際大きな声とインパクトで、渦中の店長が金髪野郎の声をかき消した。彼の頭を流れていた血は、かさぶたとなり頭皮に密着するように固まっていた。なるほど、髪の毛に見えなくない。

「どちらかと言うと、みたらし団子みたいですね」

警察官の冷静なツッコミで思わず吹き出してしまった。何か言いたげな男の口をみたらし団子塞さいだ。

「吉さんは明日早番で忙しいそうなんです。出来ればこの辺りでご帰宅させてあげたいのですが、よろしいでしょうか?」

一連のことを知らない人からみれば、彼は一事故の目撃者なだけなので、この承諾はすんなり受理され、警察官は本来の持ち場に戻った。

「ごちそうさま」が聞きたくて

自らの傷害をもみ消してもらったのに、男は不服そうにつっかかった。

「なんで庇う?そもそも何で俺の名前や仕事のこと知ってるんだ?」

言われてはっとした。確かに彼は何度か『吉さん』と名指しをしていた。俺は無意識に常連のクレーマーなのかと判断していたようだ。

「大変申し訳ありません。先ほどスマホを操作されている所を『偶然』拝見してしまって・・・」

いや、それはおかしい。メールの内容なんて、その人の背後にいかないとまず見れない。

「アレかなー・・・?」

俺と金髪野郎は、店長の後頭部のアンテナのような突起物に目を向けた。そんな不審な視線をよそに、店長は満面の笑みを金髪野郎に向けた。

「いつも夜遅くまで、お仕事お疲れ様です。今夜はとても慌ただしくなってしまいましたが、次回はゆっくり食べに来てください」

バツの悪そうに帰る男の背中を深々とお辞儀をして見送っていた。彼が帰り際に呟いた「ごちそうさん」が何故か耳に残った。

牛丼屋のお弁当容器は電子レンジ可能です

「僕たちも帰ろうぜ」

好屋に声をかけられ、帰宅しようと背を向けたが、後ろから「お待ちください」と呼び止める声がし立ち止まった。いつの間にか頭にターバンのように頭に包帯をグルグルまいた店長が、何やらビニール袋に入れて俺に手渡した。

「ほとんど手をつけられていなかったようなので、テイクアウト用の容器に移しました。体調が良くなったらお召し上がりください。」

わたされたのは、俺が手をつけず残した牛丼をつめた弁当だった。店長としては100点満点の対応だ。でも、こんな大惨事があった後なのに、まだ接客をしようとする姿勢に俺は逆に嫌悪し、思わず声が出てしまった。

「どうして、ここまで他人のために尽くせるんですか?」

ありがとうございます、と一言いって受け取ればそれで終わりのはずなのに、その社交辞令ができなかった。人として完璧すぎるその店員の対応が、俺には受け止めることが出来なかったからだ。好意を無下にされ、さぞかし不快に想われただろう。しかし、彼はまったく変わらない笑顔で応えた。

「あなたも、私のために口論してくれたではないですか。それと同じですよ。」

斜め上すぎる返答で言葉を失った。俺とこの人が同じのはずがない。

だってこの人は、ー・・・

俺が理想としていた姿そのものだったからだ。

顔以外は。

(C)たけだおうし / USHIYA
オリジナルWeb漫画『牛屋の店長!』