牛丼屋の昼ピークを体験する(漫画 第15話)

接客はもう完璧
もうすぐ昼ピーク
牛屋名物『昼ピーク』
お昼休憩はサラリーマンが一気に駆け込む

目次(小説)

  1. 牛丼屋の研修期間は入店時間が少ない
  2. 牛丼屋の名物昼ピークは一味違う
  3. 牛丼屋の昼ピークの客層はサラリーマン

牛丼屋の研修期間は入店時間が少ない

バイト開始10日後

「ありがとうございました!またご利用くださいませ!」

『ごちそうさま』と席を立ち、帰るお客様を背に俺は声を張り上げてあいさつした。

初めの頃は緊張してなかなか声が出なかったが、中学まではバリバリの体育会系だったので、大声を出すのは得意だった。

「お疲れ様です。さっきの接客、とてもいい笑顔でしたよ。お客様の目をしっかり見て応対できていますし、接客はもう完璧ですね」

厨房に戻ると、店長からお褒めの言葉をいただいた。牛丼屋でのアルバイトを開始して、今日で6日目の入店。最初の5日間は研修期間ということで、就業時間は3時間の制限があったが、今日から8時~17時のフルで働くことが出来る。俺もこれで一人前というわけだ。

「それでは洗い場に戻ってください」

そしていきなりの接客クビ宣言である。とぼとぼと洗い場に戻り、一人反省会を始める。

「仕方ないよ、もうすぐ『昼ピーク』だからね。ほらほら、落ち込んでる暇なんかないよ」

厨房でせっせと調理準備している、アルバイトの先輩の杉さんが、声をかけてくれた。昼ピーク?これから数分後、俺は牛屋で起きる惨劇を目のあたりにする。

牛丼屋の名物昼ピークは一味違う

12:00 昼ピーク開始

「いらっしゃいませ!こんにちは!」

Yシャツにネクタイと、サラリーマン風の男性が一人来店された。間髪入れずにもう一人、いや二人三人四人・・・・もう数え必要性がなくなるくらい、あっと言う間に券売機は長蛇の列になり、気が付けば満席になっていた。

ウシハマ店は、U字型のカウンター席以外にに窓側を向いたカウンター席と、テーブル席が5つあるので最低でも25人以上、券売機に並んでいる人や、席の後ろで待っている人を含めると、30~40人くらいはいるのではないか?これまで客としても何回か入店したが、ここまで混雑したのを見るのは初めてだ。

「すみません!食券お願いします!」「あ、俺の牛丼ネギヌキで」「お冷ください!」

「さっき頼んだのご飯少なめにして」「温かいお茶ってありますか?」「カレーハノミモノ」

カウンターの中央で応対している店長に向かって、四方八方からお客様が自分たちの要望を投げかける。

「かしこまりました。牛丼の並盛ですね」「ネギダク牛丼承知しました」「お冷のおかわりお待たせしました」
「ごはん少な目の牛丼になります」「温かいお茶をご用意いたしました」「カレーは飲み物ですよね」

それに対して、表情一つ変えず(変わらず?)店長は一人一人丁寧に応対している。

お客様一人に対しても緊張している自分が、もしこの場に立たされたらと思うとゾっとした。

牛丼屋の昼ピークの客層はサラリーマン

「ふふ。驚いたでしょう?これが牛屋名物『昼ピーク』よ。ウシハマ店は駅前に加えて、ビジネス街にあるからお昼休憩の時間になるとサラリーマンが一気に駆け込むのよ」

厨房で杉さんとマッシュが得意そうに、昼ピークについて説明してくれた。

確かに。今まで何度か牛屋に食べに来たが、大学の講義の終わりだったり、休日のお昼だったりで、平日の昼時は来たことがなかった。さすがにこの混雑を目の当たりにしたら、入店をためらったかもしれないし、牛丼屋でアルバイトしようなんて思わなかったかもしれない。

だが、来客数は減ることなくどんどん増え、券売機待ちの列は外にまで出ていた。こんなに人がいて、待ってまで食べにくるってことは、みんなよほど牛丼が好きなんだな、と感心していると、杉さんから若干の訂正が入った

「美味しさもあるけど、一番はやっぱり回転の速さかな?サラリーマンの人達は、急いでいる人達が多いから食べたらすぐ席を立つし。外での待ち時間なんて、ほんの数分だよ。一時間で全席3・4回転はするから100人くらいは、余裕で食べていけるよ」

一時間で100人。1分間に何人応対すれば、接客・配膳・下げ善ができるのか。

「ほらほら、松野君もぼーとしている時間なんかないよ。洗い場見て!」

ほんの数分前まで、丼一つないきれいな洗い場に、所狭しと洗い物が山のように高々と積み重ねられていた。あまりにも現実離れしていた光景を傍観している俺に、地獄の現実を突きつけられた。

©武誰応志 / USHIYA
オリジナルWeb漫画『牛屋の店長!』