牛丼屋で働いて従食を食べる(漫画 第13話)

初めて牛屋で働いた感想
牛丼屋の従食(従業員食事割引制度)
牛丼の特盛卵つき
労働のあとの牛丼は格別

目次(小説)

  1. 牛丼屋のお昼休憩は事務所で過ごす
  2. 牛丼屋の従食(従業員食事割引制度)を知る
  3. 牛丼屋で従食を格安で食べる

牛丼屋のお昼休憩は事務所で過ごす

PM 1:30

「お疲れ様でした。初めて牛屋で働いた感想はどうですか?」

体験入店を終えた俺と店長は、事務所に戻り歓談していた。

「『乾燥』ですか?干しシイタケになるかと思いましたよ。ただ、その後飲み干す水の美味さというか、吸収率というかが素晴らしくー・・・ああ、これが『ととのう』ってヤツなのかと」

違う、もう一人(?)いた。

前回、俺が誤って食器洗い乾燥機に混入させてしまったキノコが、まるで初めてサウナに入った入浴客のように、清々しい笑顔で語っていた。しかも、なぜかマッチョになっていた。

あの後、店長は光の速さで食器洗浄機を分解、機内の隅々まで洗浄し、何とか洗い場が崩壊する前に、現状に戻すことができた。店長曰く、食器洗浄機は定期的に洗浄を行っていて、今日の深夜行う予定だったとのことだったが、きっと俺に気遣ってくれたのだろう。アルバイト初日に多大な迷惑をかけてしまい、情けない気持ちでいっぱいだった。

『グウウウウ・・・・』

反省はするも腹は減る。部屋中に響く腹の音で、さらにいたたまれなくなった。

牛丼屋の従食(従業員食事割引制度)を知る

「はっはっは。すみません。もうお昼過ぎてますもんね。『従食』食べていきませんか?」

突如提案された、聞きなれない『じゅうしょく』という単語に呆けてしまう。文面の流れからすると『まかない』の類のものだろうか?

「『従業員食事割引制度』略して従食。『まかない』と違って料金は発生しますが、牛屋の全メニューを格安で食べれる制度になります。牛丼ならサイズは自由に選べてサイドメニューが一つ付きます。定食メニューなら、ご飯を大盛にもできます。全品一律二百円!」

料金が発生するということに少しがっかりするも、二百円という格安な値段に興奮する。未だ食べたことのない牛丼特盛は750円する。卵は価格が高騰して今や80円。それが、たったの二百円で食べれるなんて・・・。

「牛丼特盛!卵付でお願いします!」

仕事のミスで落ち込んでいたが、空腹と興奮で思わず大声が出てしまった。恥ずかしいことこの上ないのだが、店長はそんな俺の姿を見て穏やかに笑い、

「牛丼特盛・卵つき二丁お願いします」

内線電話で、店内にいる杉さんに二人分の従食を注文してくれた。

牛丼屋で従食を格安で食べる

「はーい。ウー〇ー杉さん登場だよ~♪牛丼特盛・卵セットお待たせしました♪」

軽快な掛け声とともに、両手にお盆を抱えた杉さんが、事務所に従食を届けてくれた。今朝、面接を受けたテーブルの上に、牛丼の特盛が二つ置かれる。牛丼の特盛に卵ー。仕送りを切り詰めて生活していた俺にとっては、夢にまで見た贅沢品。

「いただきます!」

俺は空腹と感動に耐え切れず、目の前の牛丼をかき込んだ。

急に涙があふれてきた。

牛丼を食べた途端、緊張の糸が切れ急に気が抜けてしまった。温かく優しい牛丼の味が、今までこわばっていた俺の体と心を穏やかに包んでくれる。涙が止まらないが、食べる箸も止まらない。泣きながら牛丼を食べるその光景は、とても奇怪に見られただろう。だが牛丼屋でアルバイト初めて良かったと、心から思える時間だった。

「労働の後の牛丼は格別ですね」

そう。まさにそれだ。昔、祖父の畑を手伝った後に食べた時の、おにぎりの味を思い出した。そして店長は両手に丼を持ち、口の中に牛丼を一気に流し込んだ。

「食べ方!!!!!」

©武誰応志 / USHIYA
オリジナルWeb漫画『牛屋の店長!』