牛丼屋の店先で愛を叫ぶ(漫画 第5話)

いかせません
わたしはしにましぇえええん
あなたのことがしゅきだからあああ
運転手の方は大丈夫でしたか?

目次(小説)

  1. 異世界にはいかせません
  2. 牛丼屋の前で愛を叫ぶ
  3. 事情聴取を受けてみた

異世界にはいかせません

「(異世界には)いかせません!」

『ドン』という、けたたましい爆発音が響き、真白になった視界が少しづつ形を取り戻す。異世界への扉を開くのをー・・・違う、目の前に迫ったトラックを全力で阻止する姿がそこにあった。

牛丼屋の店長だ。

姿は未だマッチョの宇宙人のままだが。いや、むしろこの姿だからこそ、今のありえない光景に現実味が帯びる。アクセル全開の2トントラックを素手で止めることが出来るのは、まさにヒーロー物の映画のワンシーンだった。空回りするタイヤの焦げる臭いが辺りを覆い、トラックが少しづつ牛丼屋へ向かって前進する。

トラックはまだ静止していない。運転手は気絶したまま、アクセルを踏み続けてしまっているようだ。

牛丼屋の前で愛を叫ぶ

白銀のハルクは更に両腕に力をこめ、負傷した頭部から噴水のように血を噴き出した。

ジリジリと彼の足が後退する。このままでは何れ彼の体力が尽き、トラックは店舗に突っ込むだろう。

おそらく、あの店長の身体能力であれば、トラックから身をそらして自分だけ助かることはできるだろう。だが、彼は絶対にしない。必ず助けると背中が語っていた。

「だめだ!死んじまうよアンタ!」

先程まで口論していた金髪の暴漢が、彼の背中に向かって叫んだ。意外にも人の身を案じているとも取れる言葉だった。真紅の鮮血とエプロンを翻しながら、彼はその言葉に反論した。

「わたしは、しにましぇえええええええん!」

気のせいか、どこかで聞いたようなセリフだった。まさかと思うが、次に続くセリフはアレだろうか。

「あなた(お客様たち)のことが、しゅきだからあああああ!」

やっぱりそうだった。予想道理だったが、この状況で本当に言うとは思わなかった。

不覚にもトゥクンと胸が鳴るのを聞いてしまった・・・。

事情聴取を受けてみた

トラックは無事、店の一歩前で停止した。

程なくして、駅近くの交番に駐在している警察が異変に気づき、数台の警察車両と共に牛丼屋にかけつけた。店長を見るやいなや、驚きの声を上げる警察官もいたが、きっとその容姿ではなく流血する頭部の怪我のせいだろう。

俺たちはしばらく事故の目撃者としていくつかの質問に答えるなど、警察の指示に従った。質問を受ける中、向こうでトラックの運転手の容態をしきりに心配する店長の姿が見えた。警察から無事を伝えられ、安堵の表情を浮かべている所をみると、この人の底なしの人の良さが伺える。

「うー・・やっと尋問おわったよう」

店の方から警察からの質問がおわった好屋が出てきた。ツっこみを待っていたようだが、流石に俺も疲れはてていたので敢えてスルーした。

店舗に直接損傷はないものの、店の出入口付近は『立入禁止』の警告テープが貼られ、重々しい雰囲気が漂っていた。店長があの時止めてくれなかったらと思うと、改めてゾっとする。

数分前までの自分だったら、この場にいる警察官にあの金髪野郎の愚行を通報していただろうが、命拾いした安堵からその気力は失われていた。

だがー

「おい。ちょっといいか?あの店員のことで話があるんだけどー」

店の裏で警察を呼び止める声がした。

「あいつの頭に怪我ー」

驚くことに、金髪野郎は自白を始めたのだった。

©武誰応志 / USHIYA
オリジナルWeb漫画『牛屋の店長!』