牛丼屋の弁当をお持ち帰り(テイクアウト)
「店長が事故に!?店先での重大事故発生!?:第五話」「牛丼屋の弁当をお持ち帰り(テイクアウト):第六話」「夜は夕飯に温かい牛丼を食べに行こう!:第七話」を動画で見る
目次(小説)
またのご来店をお持ちしております
「頭に毛が生えるアドバイスをもらってたんです」
ひと際大きな声とインパクトで、渦中の店長が金髪野郎の声をかき消した。彼の頭を流れていた血は、かさぶたとなり頭皮に密着するように固まっていた。なるほど、髪の毛に見えなくない。
「どちらかと言うと、みたらし団子みたいですね」
警察官の冷静なツッコミで思わず吹き出してしまった。何か言いたげな男の口をみたらし団子塞さいだ。
「吉さんは明日早番で忙しいそうなんです。出来ればこの辺りでご帰宅させてあげたいのですが、よろしいでしょうか?」
一連のことを知らない人からみれば、彼は一事故の目撃者なだけなので、この承諾はすんなり受理され、警察官は本来の持ち場に戻った。
自らの傷害をもみ消してもらったのに、男は不服そうにつっかかった。
「なんで庇う?そもそも何で俺の名前や仕事のこと知ってるんだ?」
言われてはっとした。確かに彼は何度か『吉さん』と名指しをしていた。俺は無意識に常連のクレーマーなのかと判断していたようだ。
「大変申し訳ありません。先ほどスマホを操作されている所を『偶然』拝見してしまって・・・」
いや、それはおかしい。メールの内容なんて、その人の背後にいかないとまず見れない。
「アレかなー・・・?」
俺と金髪野郎は、店長の後頭部のアンテナのような突起物に目を向けた。そんな不審な視線をよそに、店長は満面の笑みを金髪野郎に向けた。
「いつも夜遅くまで、お仕事お疲れ様です。今夜はとても慌ただしくなってしまいましたが、次回はゆっくり食べに来てください」
バツの悪そうに帰る男の背中を深々とお辞儀をして見送っていた。彼が帰り際に呟いた「ごちそうさん」が何故か耳に残った。
牛丼屋の前でテイクアウト用のお弁当をわたされる
「僕たちも帰ろうぜ」
好屋に声をかけられ、牛丼屋を後にしようとするが、後ろから「お待ちください」と呼び止める声がし立ち止まった。いつの間にか頭にターバンのように頭に包帯をグルグルまいた店長が、何やらビニール袋に入れて俺に手渡した。
「ほとんど手をつけられていなかったようなので、テイクアウト用の弁当容器に移しました。体調が良くなったらお召し上がりください。」
わたされたのは、俺が手をつけず残した牛丼をつめた弁当だった。店長としては100点満点の対応だ。でも、こんな大惨事があった後なのに、まだ接客をしようとする姿勢に俺は逆に嫌悪し、思わず声が出てしまった。
牛丼屋のお弁当容器は電子レンジ可能です
「どうして、ここまで他人のために尽くせるんですか?」
ありがとうございます、と一言いって受け取ればそれで終わりのはずなのに、その社交辞令ができなかった。人として完璧すぎるその店員の対応が、俺には受け止めることが出来なかったからだ。好意を無下にされ、さぞかし不快に想われただろう。しかし、彼はまったく変わらない笑顔で応えた。
「あなたも、私のために口論してくれたではないですか。それと同じですよ。あ、ちなみにこのお弁当容器電子レンジ対応なので、このまま温めて大丈夫ですよ♪」
斜め上すぎる返答で言葉を失った。俺とこの人が同じのはずがない。
だってこの人は、ー・・・
俺が理想としていた姿そのものだったからだ。
顔以外は。
著者情報
ペンネーム:たけだおうし
職業:Webデザイナー・ディレクター
職歴:牛丼屋の正社員→広告会社→Webコンサル(現在)
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