バイトの熟練技を学ぶ – 牛丼屋の接客術
「バイトの昼ピーク体験 牛丼屋で働くリアル:第十五話」「バイトの熟練技を学ぶ – 牛丼屋の接客術:第十六話」を動画で見る
目次(小説)
昼ピークの洗い場は熟練バイトでないと不可能か?
体験入店の時の悪夢再び。目の前にはおびただしい数の洗い物の山。だが、牛丼屋のアルバイトを始めたあの時の俺とは違う。
「スポンジは、左手で!」
トレー側に丼を持ち、最短ルートで食器をあらう。逆の手で洗う違和感もなくなり、洗うスピードも格段に速くなったはず。こんな洗い物の山もあっと言う間になくなー・・・・らない!むしろ増えている!?洗い場に運ばれる丼の山は、最善・最短・最速で洗っても一向に減る気配がなかった。
ここで、一つの疑問が脳裏によぎった。
「いつの間にこの量の牛丼が出たんだ?」
牛丼屋の満席時の接客は経験がものを言う
客席の方に目を向けると、全席に牛丼は提供され、すでに席を離れる人もちらほらいた。
「お先にお待ち一名のお客様、こちらのお席へどうぞ」
そう店長が声をかけると、食器を片付けると同時にテーブルを拭き、流れる動きで次々とお客様を誘導していく。食券を受け取り、厨房に戻ると同時に、2・3人前の食器を片付け、用意された牛丼を持って客席に戻る。全く無駄のない動きにもだが、あれだけの数のオーダーを伝票も取らず、完璧に覚えている記憶力にも驚いた。
牛屋には、牛丼だけでなく、カレーや焼肉やハンバーグ定食といった商品もある。牛丼だって、並~特盛といったサイズだけでなく、ツユダク・ネギダクといっかカスタマイズから、卵・キムチ・チーズといったトッピングもある。
それだけじゃない。食べ終わった人から次々に席を交代していくので、提供する順番だってバラバラのはずなのに、一回も間違えることなく、正確に順番通り商品を提供している。(定食などの時間がかかる商品の場合は、必ず「提供が前後します」と伝えている)
「これが、熟練者の接客か・・・」
店内を見渡しイメージトレーニングをするものの、3人まででオーダーを忘れて挫折した。
さらにここで、もう一つの疑問が脳裏をよぎった。
「数合わなくないか?」
牛丼屋の熟練の接客術は人間離れしている
店長が客席から戻ってくる時、必ず食べ終わった食器を持って帰ってくる。これは、食器を重ねてくるから、何人前のでも問題はない。
問題は提供する商品の数だ。厨房を見ると、4人前の商品が用意されている。お盆にのっているので、一回運べる量は片手で持っても2つまでだ。
しかし、店長が客席から戻ってくる前に、4人前全てが運ばれている。数多の上の乗せたとしても、3人前が限界のはずだ。この計算だと、今客席には店長が二人以上いる計算になる。
「牛丼並盛ツユダクお待たせしました!」
俺は疑いを晴らすべく、店長の声がする店内の方へ目を向けた。
「牛丼並盛一丁ツユダクありがとうございます!」
「カレーの大盛お待たせいたしました!」
「大変お待たせいたしました。焼肉定食ライス大盛です!」
「牛丼豚汁セットお待たせしました!」
「カウンターテーブル4席、下げ善お願いします」
「了解!4名様こちらのお席どうぞ!」
二人どころじゃなかった。
「今日も出たわね・・・。ピーク時のみ発動する店長の接客術『質量のある残像(ア・ロットオブ・スマイル)』」
違う。残像ってそういう使い方じゃない。明らかに個々で別の動きしてるし。さっきハイタッチしてたし。
「一人前と認められたかったら、このくらいできないとね!」
店内は無数に増えた店長、目の前にはどや顔のアルバイトの先輩と、「私にもできます」と言わんばかりに数を増やしたキノコ。
「俺、いらなくね?」
最後に、一番考えたくない疑問が浮かんでしまった。牛丼屋のアルバイトは選ばれた人しかできないということか・・・
著者情報
ペンネーム:たけだおうし
職業:Webデザイナー・ディレクター
職歴:牛丼屋の正社員→広告会社→Webコンサル(現在)
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