夜は夕飯に温かい牛丼を食べに行こう!
「店長が事故に!?店先での重大事故発生!?:第五話」「牛丼屋の弁当をお持ち帰り(テイクアウト):第六話」「夜は夕飯に温かい牛丼を食べに行こう!:第七話」を動画で見る
目次(小説)
牛丼屋での事件から一夜あけて
翌日ー
「おはよう、松野君。昨日は大変だったね」
一時限目の講義室で準備をしていると、昨日に続いて好屋に声をかけられた。二日酔いの頭に、彼のひと際陽気な声はキツい。ちなみに、この授業も一年の必須科目だ。一体去年いくつ単位を落としたのか。それとも、授業に出れないほど、大学の部活とは大変なのか?
彼は俺がせっかく早めに来て陣取った、中央側の一番端というベストポジションの席を遠慮なしに奪い隣に座った。
牛丼弁当は電子レンジ対応です
「牛丼食べた?やっぱり温っめ直しはイマイチだったかな?」
結局あのあと牛丼弁当を受け取って帰宅した。その日はさすがに疲れすぎたので、もらった弁当は冷蔵庫に入れ朝ごはんに回すことにした。
ひと眠りしてスッキリした頭でー・・・とはならなかった。生まれて初めて味わう二日酔いの気持ち悪さで、しばらくの間動けなかった。何度か水を飲んでは横になりを繰り返して、ようやく体が起こせるところまで落ち着いてから、ある現実に直面した。
「俺の部屋、電子レンジないんだよな・・・」
「冷たいよ!」
そう。弁当容器は電子レンジ対応でも、俺の部屋が電子レンジ対応していなかった。愕然としたが、やはり残すのはもったいないので、冷たいままモソモソ食べることにした。だが、二日酔いで悶々としていた体には、意外にも冷たいご飯も少し硬くなった肉も逆に食べやすく、気が付けば全て平らげてしまっていた。
「いや、冷たかったけど、美味しかったよ」
本来の美味しさではなかったのかもしれないけど、間違いなくその牛丼は美味しいと感じた。
それを聞くと好屋はなぜか片手をあげ、ハイタッチを求めた。正直、俺はそういうキャラではないのだが、この時は彼に合わせてハイタッチをしてしまった。
あの笑顔に会いに夜は牛丼を食べにいこう!
何かが変わるかもしれないと思った。
大学生活を始めて、初めて心を動かされた。それは、希望していた勉学の道ではない全く別の道。
確かめるためには、もう一度あの牛丼を食べに行く必要がある。そして、酔っ払いじゃない、正常な頭であの人と対面したい。
夜、今度は俺のほうから好屋を誘い、夕飯を食べに牛丼屋『牛屋』へ向かった。もう酔っていないから、あの宇宙人のような顔はもう見ることは出来ないだろう。店長の素顔をワクワクしながら想像する一方、二度とあのユルキャラのように簡略化された笑顔に会えないのが少し寂しくもあった。
「いらっしゃいませ!ご来店ありがとうございます!」
店内は昨夜訪れた深夜と違い、夜ごはんを食べに来たお客さんたちで賑わっていた。そして店長の顔は変わらずユルかった。加えて店員はやっぱりキノコでこっちは濃かった。
「昨晩はお騒がせして、大変申し訳ありませんでした。おや?どうなさいました?」
思わず目を覆ってしまった俺を気遣って、相変わらず丁寧な接客をしてくれる店長である。
「二日酔いなんで気にしないでください」
そして、相変わらず適当な対応の友人Aである。まだ酔いは冷めていないのか、それとも宇宙人みたいな姿は現実のものなのか。もし後者だとしたら、なぜ好屋を含め他のお客さんたちは普通に接しているのか。
ー・・・
ー・・・・・
どうでもいいと思った。
素直にまた、店長のあの裏表のない笑顔に会えたのがうれしかった。俺は覆っていた手をどけて、目の前に置かれた熱々の牛丼を見つめた。
「いただきます」
俺と牛屋の物語はここから始まった。
著者情報
ペンネーム:たけだおうし
職業:Webデザイナー・ディレクター
職歴:牛丼屋の正社員→広告会社→Webコンサル(現在)
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