バイトから正社員へ 牛丼屋の店長を目指す

法律の知識
人生に役立つ知識
もっと大きな夢を
よろしくお願いします

目次(小説)

  1. 大学を卒業してから店長を目指すメリット
  2. 牛丼屋の店長になっても勉強が多々ある
  3. 年度初めての牛丼屋の仕事

大学を卒業してから店長を目指すメリット

「教えましぇん」

なんでさ!予想外のタケダ店長の言葉に思わず声が出た。いや、でもきっと説明をしたくてたまらないのだろう。モゴモゴしている口を両手で抑えてたあと、何かを飲み込むような素振りをして、普段の冷静な体裁に戻って話を始めた。

「店長を目指すのは反対しません。むしろ歓迎します。ですがー・・・バイト先の店長という立場で、松野さんの将来や進路をとやかく言うのもなんですがー・・・大学を中退せず、ちゃんと卒業した方が良いと思います」

さらに意外な言葉が返ってきた。牛丼屋はいつも人手不足だと聞いた話がある。店長ーつまり正社員を希望するなら、大歓迎で話にのってもらえると期待していた。タケダ店長は落ち込んでいる俺を見て、諭すような口調で話を続けた。

牛丼屋の店長になっても勉強が多々ある

「先日、松野さんが深夜の騒動を止めた事を思い出してください。あの時、あなたは『労働契約法』を出して私に冷静さを取り戻させてくれましたよね。あの知識は大学の講義で学んだことではないでしょうか?」

タケダ店長は、先日の深夜の乱闘未遂の話を持ち出した。確かにあの時、どうにか店長を止めないとと、必死になってとっさに『現代法・基礎』の知識を持ち出したことがある。

「使い方は違えど、働き始め社会に出ると法律や資格といった知識が必要な場面が必ず現れます。確かに今の大学では教師を目指すのは難しいかもしれません。ですが、これから貴方の人生に役立つ知識を学べる可能性だってあるわけです。特に松野さんが通う丑球磨経済大学は経済・経営に特化した講義が多いとお聞きします。店長の店舗運営業務において、役立つ知識が得られるのではないでしょうか。」

店長はいつもの固定された笑顔だが、未だかつてない、真剣な表情で話をつづけた。

「就職するということはスタートであり、ゴールではありません。働き始めることで、新たに学び直さなくてはならないことなんて、山ほどあります。人生何が起こるかわかりません。松野さんが、牛屋で働くことで教師を諦めて、店長を目指すことが出来たように、大学で学んで行く中でまた新しい出会いをし、目指したい職業も現れるかもしれませんー」

そう話すと、席を立ち俺のすぐ横に移動して、そっと手を差し伸べた。

「卒業見込みを得て就職活動を始めたとき、それでもまだ牛屋の店長を目指すのでしたら、私の
ようになる夢ではなくー・・・もっと大きな夢を一緒に叶えましょう」

高校時代の進路相談や、大学のキャリアセンターでもこんなに自分の将来について、真剣に考えて
くれた人はいるだろうか。俺は差し伸べられた大きな手を強く握りしめた。

「今まで本当にありがとうございました。実は松野さんの頑張っている姿を見て、今回の異動を決意したのです。現状に維持せず、もっといろんな店舗で多くを経験しようと。松野さんと働けた一年間は私の一生の宝です。」

驚いたー。いや社交辞令だと思う。でも、それでも完璧だと思っていた店長に、少しでも自分が影響を与えられていたとしたら、それはとても光栄なことだった。

「ウシハマ店のことよろしくお願いします」

そう言葉をかけられると、大粒の涙が頬を伝うのを感じた。その後、タケダ店長と共に店舗に向かい、いつも通りに店を回した。仕事上がりの従食では、店長が珍しく『牛丼特盛』をゆっくり食べながら談笑した。(ちなみにいつもは約1秒で流し込んでいた)

年度初めての牛丼屋の仕事

4月1日エイプリルフール。一年に一回嘘をついても良いとされる日。

多くの企業のホームページやオンラインゲームが、ジョークイベントを開催する。お堅いイメージの企業のホームページがアニメ風になったり、美少女ゲーム会社が美少年恋愛ゲームを発表したり。通年までは翌日は「嘘です」とお詫びの一言掲載して済んでいたが、最近は『ネタ』と区別できずクレームが多発したことから、エイプリルフールネタを控えている企業も出てきているようだ。

つまらない世の中だと思う一方、自分がもし大切な人から嘘をつかれていたとしたら、やはりネタだとしても許せないと思うので、当然の配慮かもしれない。

「おはようございます」

この日ばかりは、嘘でもいいからいつものメンバーの顔を見たいとおもった。事務所の扉を開いても、そこにはタケダ店長の姿も杉さんの姿はいない。俺は静まり返った事務所で、一人支度をして店舗の方へ移動した。

厨房の中を除くと、すでに一人マッシュの隣で身を潜めているアルバイトらしき男性の姿があった。きっと今日から入った新しいバイトの人だろう。気落ちしていたとはいえ、新人のアルバイトより遅く入店していた自分を恥じた。気持ちを切り替えし、自分を鼓舞して仕事モードに切り替える。

「おはようございます。今日から入店の茂部さんですね?よろしくお願いします」

タケダ店長にウシハマ支店を任せられたんだ。いつまでグジグジしていても始まらない。だって俺はー。

(C)たけだおうし / USHIYA
オリジナルWeb漫画『牛屋の店長!』