6Gでメタバースはホームページを超える?

メタバース制作を続けてきた理由

メタバース制作を続けてきた理由と、そこにある可能性

これまでメタバースの制作事例や、メタバースに関する情報発信を続けてきましたが、実際に広く注目されているとはまだ言い難いのが現状です。ホームページやSNSのように数多くの事例があるわけでもなく、身近でメタバースを活用している人もほとんどいません。企業の取り組みも、大手を除けばまだ限られており、「メタバースを使って何かをする」という文化自体が、一般にはそれほど広がっていないように感じます。

漫画背景づくりから始まったメタバース制作

メタバースワールドをつくるきっかけは、自作の漫画に使う背景を3Dで表現したいというシンプルな動機でした。牛丼屋の店内を再現するところから始まり、イベント会場、テニスコート、駅のホーム、オフィスなど、気づけば多様なジャンルのメタバースワールドを個人で作れるようになっていました。

その中で強く感じたのが、メタバースの「伝える力」の強さです。ブラウザやスマホ越しにアクセスするだけで、その場に「いる」ような没入感があり、ホームページやSNSでは伝えきれない情報の温度や空気感まで届けられる。さらに、ワールド内で初対面の人と気軽に会話ができたり、有益な情報をリアルタイムで交換できたりする体験は、これまでのWebにはなかった価値でした。

プラットフォームごとの特徴と制作体験

Blenderでつくったメタバース用の3Dモデル

Spatialから始まり、cluster・VRChat・Roblox・Fortniteなどへ

私が初めて本格的にメタバースの世界に踏み込んだのは、ビジネス用途に適した「Spatial」というプラットフォームでした。当時は前職でイベントの開催に使う目的で導入し、バーチャル会議室や展示空間などを制作・運用していました。しかし、Spatialは度重なる仕様変更や有料化の動きによって自由な制作が難しくなっていきました。

そこで、代替となるプラットフォームを探す中で出会ったのが、「cluster」「VRChat」「Roblox」「Fortnite」など、個人でも無料で活用できるメタバースプラットフォームたちです。それぞれに異なるユーザー層と特徴があり、作り手としても非常に興味深い体験ができました。

Blenderでつくった3Dモデルは各プラットフォームへ応用可能だった

複数のプラットフォームを使い分ける中で感じたのは、「制作のベースは共通である」ということです。私の場合、背景や建物などの3Dモデルは基本的にBlenderで作成しています。モデリングしたデータは、形式を変換・調整することで、ほとんどのプラットフォームに対応可能でした。

たとえば、clusterではUnityと連携して配置、VRChatもUnityベースで制作しますし、Robloxでは独自のStudioを通じてBlenderのモデルを活用できます。一度しっかりと3Dモデルを作っておけば、ひとつの資産を複数の世界で再利用できるのは、非常に効率的で魅力的でした。

それぞれのユーザー層へのリーチ戦略を行うため、複数プラットフォームで公開

なぜ私は、わざわざ複数のプラットフォームに同じようなメタバース空間を展開しているのか?その理由は明確で、それぞれのプラットフォームには異なるユーザー層が存在するからです。たとえば、clusterでメタバースを楽しんでいるユーザーと、VRChatで活動しているユーザーは必ずしも重なっていません。Robloxに至っては、小中学生を中心とした若年層が圧倒的多数です。

ホームページ運営における「X(旧:Twitter)やInstagramなど複数のSNSを併用して発信する戦略」に似て、メタバースも「プラットフォームを分散して展開することで、より広い層に情報を届けられる」という可能性を秘めています。現時点ではまだ小さな試みかもしれませんが、将来的に多くの人がメタバース空間を日常的に利用するようになれば、この先行投資はきっと意味を持つはずだと感じています。

メタバース空間の「存在感」はホームページ以上

VRゴーグルがなくても感じられる臨場感

VRゴーグルがなくても感じられる臨場感

「メタバース」と聞くと、ゴーグルを装着して没入する仮想空間を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、私が発信しているメタバース空間は、VRゴーグルがなくてもPCやスマホからアクセスできるものが中心です。それでも、画面の中に広がる立体的な空間、そこに配置されたオブジェクトの奥行きやスケール感は、ホームページやSNSとは一線を画す「臨場感」をもたらしてくれます。

たとえば、自分の制作した建物の中を実際に歩いて回れる。展示された情報を、視線を動かして「見に行く」という体験そのものが、閲覧というより体感に近いのです。テキストや画像の情報が「読む」ものであるのに対し、メタバースは「入る」もの。たとえ平面の画面越しであっても、空間の中に『身を置く』感覚は、ホームページでは得られない強さを持っています。

ワールド内での偶然の出会い、リアルタイムな情報交換の体験

もう一つ、メタバースの大きな魅力は「偶然の出会いとリアルタイムの交流」があることです。ホームページは基本的に一方通行の情報発信ですが、メタバース空間では、自分が空間に滞在しているときに、ふらっと訪れた誰かとリアルタイムで会話が始まることがあります。それはまるで、イベント会場のロビーで思わぬ知り合いに出会うような、あの感覚。実際に、私が同じワールドに訪れた人とその場で雑談が始まり、そこから新しいアイデアや企画が生まれたこともありました。

このように、その場にいるからこそ生まれる「偶然」や「対話」が、メタバースにはあります。それは、定型化されたフォームやSNSのコメント欄にはない、人と人との生きたコミュニケーションです。

Web制作と比較して見えたメタバースの強み

Webデザイナーとしての20年の経験

私はこれまで約20年間、Webデザイナーとして企業のホームページやLP(ランディングページ)など、数多くのWeb制作に携わってきました。クライアントの要望をくみ取り、ターゲットに最適な構成を考え、デザインに落とし込み、実装し運用に至るまで。一つのサイトができあがるまでには、見えないところで膨大な設計と調整が必要になります。

情報設計、誘導動線、コンバージョンなどの複雑なプロセス

Webサイトでは、「伝えたい情報をどう並べるか」「どこにボタンを配置すればユーザーが行動を起こしやすいか」「どんな言葉を使えば信頼につながるか」など、ユーザーの視線や思考を先回りして設計する必要があります。コンバージョン(資料請求・問い合わせ・購入など)を促すためには、ページの構造や色使い、ボタンの大きさ、文章の順番に至るまで、細かなチューニングが求められます。これはWebという平面メディアにおいて、「行動を導く」ための非常に緻密な作業です。

メタバースなら「そこに置いておけば伝わる」シンプルさ

一方で、メタバース空間に情報を置いてみて気づいたのは、もっと直感的に伝わるということでした。空間の中に3Dの模型やパネルを配置しておくだけで、ユーザーは自然にその場所に近づき、見たり触れたりしてくれます。説明しなくても「これは何だろう」と自発的に関心を持ってくれる。まるで実際の展示会やショールームのように、「置いてあるものが語る」状態が実現できます。

つまり、メタバースでは「情報の配置そのものがコミュニケーションになる」のです。これまでWebで培ってきたロジックや導線設計が、ある意味で必要ないくらい、空間そのものに説得力があることを実感しました。

スタッフ対応や商談もリアルタイムで完結可能

さらに、メタバースの強みは「空間に人がいる」こと。ユーザーが訪れたときにスタッフが空間内に待機していれば、その場で声をかけ、質問に答えたり、資料を案内したりすることができます。リアルタイムのコミュニケーションが可能なので、そのまま商談へ移行することも現実的です。従来のWebサイトでは、問い合わせフォームや予約ページを経由してようやく接点が生まれますが、メタバースなら「来訪」→「対話」→「納得」までを一つの空間で完結できます。

メタバースならではのシンプルさとリアルタイム性がもたらす『伝わりやすさ』と『即時性』は、従来のWebの枠を超えた強みです。今まで「伝えるために複雑化してきた情報設計」が、メタバースでは「置くだけで伝わる」という体験に変わったとき、情報発信のあり方そのものが変わりつつあることを実感しました。

メタバース普及を阻む壁と突破のカギとなる『6G』

6G到来でメタバースのスマホ対応が一気に開花

VRゴーグル未普及、スマホ非対応、通信環境の問題

メタバースが「次世代の情報発信ツール」として注目されながらも、まだ広く普及していない理由には、いくつかの現実的な課題があります。まず大きいのが、VRゴーグルの普及率の低さです。ハードウェア自体が高価であり、一般家庭にまで浸透しているとは言えません。さらに、PCブラウザでメタバースにアクセスするには、ある程度のスペックを求められるため、日常的に使ってもらうにはハードルが高いのが現状です。

そして最も大きなネックは、スマートフォンでの対応が十分ではないこと。いまやWeb閲覧やSNSの主な入口がスマホであることを考えると、スマホでメタバースにスムーズにアクセスできないという点は、利用者層の拡大に大きな影響を与えています。さらに、通信環境の制約も無視できません。メタバース空間は高解像度の3Dデータやリアルタイムの通信が前提となるため、モバイル回線では読み込みや動作に時間がかかり、ストレスなく使える環境が限られてしまいます。

6G到来でメタバースのスマホ対応が一気に開花する可能性

これらの課題が永遠に続くわけではありません。むしろ、スマホで快適に使えるメタバースの登場や、次世代通信規格「6G」の普及が、その流れを一気に変える可能性を秘めています。現在も、clusterやRobloxのようにスマホ対応を進めているプラットフォームが少しずつ増えつつあり、ライトユーザーでも手軽にアクセスできる環境が整いつつあります。さらに6Gが普及すれば、膨大なデータを瞬時に処理できる通信環境が整い、遅延のない快適な3D体験がスマホでも実現できるようになります。

【参考】NTTの6G構想

日本国内では、NTTドコモやNTTグループが6Gに向けた取り組みを本格化しています。たとえばNTTドコモは、2030年頃の実用化を目指し、「超高速・超低遅延・多数同時接続」を特徴とする6Gネットワークの研究開発を進めており、その中でメタバースやXR技術との親和性にも言及しています。

>>6G通信とは?いつから何が実現するのかを解説(docomo business Watch)

>>6G時代の高機能サービスの利用に向け、ネットワークとサービスの連携によるコンピューティングサービスのオンデマンド一括制御の実証に成功~In-Network Computingによる6G時代のAI活用に向けて前進~(NTTグループ:ニュースリリース)

これらの技術進化によって、メタバースは「一部の先進ユーザーの遊び場」から、「誰でも使える情報空間」へと進化するでしょう。普及の壁を越えたその先に、これまでにない新しいWebの形が見えてくるのではないでしょうか。

6G普及でWeb制作の現場に、メタバースが加わる?

これまで、メタバースを使った情報発信について語ってきました。それはあくまで「発信者目線」での話でしたが、実際に制作を続けていく中で、これは単なる発信ツールを超えて、Web制作の現場そのものを変えていく可能性があると感じるようになりました。ホームページやSNSの次に来る『場』として、メタバースは今、着実に存在感を強めています。そして、その制作に関わる人の役割も、これから変わっていくはずです。

海外のWeb制作現場でも広がるメタバース制作

以前、一緒に働いていた海外のWebデザイナーやWeb制作会社がこぞってメタバース制作に取り組み始めました。ちょうどそのタイミングで、私も独学でメタバースの世界に挑戦し始めていました。最初はまったくの初心者で、3Dの知識もプログラミングスキルもありませんでしたが、テンプレートやチュートリアルを活用することで、数ヶ月のうちに自分のワールドを形にできたのは大きな驚きでした。「メタバースは難しそう」というイメージがありますが、実際には多くのWebデザイナーにとって、思ったよりずっと手の届くところにある技術だと実感しています。

「DTPデザイン→Webデザイン」への変化とよく似ている

この流れは、昔の「DTPはできるけど、Webはちょっと・・・」という時代の空気に似ています。当時も「構造化されたHTML?」「ブラウザ表示の違い?」と戸惑いながらも、私たちは新しいメディアを受け入れ、乗り越えてきました。同じように、今は「Webはできるけど、メタバースはちょっと・・・」という段階なのかもしれません。

もちろん、メタバースには新しい概念や技術が求められますが、体験設計・誘導動線・視覚表現など、Web制作で培ってきたスキルがそのまま活きる場面も多いです。「メタバース制作も、『デザインの延長線上』にある。」これからは、メタバースを含む「空間設計」も担えるデザイナーが、より広く求められていくでしょう。

「IE崩れ」に悩まされた私たちなら、大丈夫(笑)

プラットフォームごとの仕様差や、環境による挙動の違いなど、「うわ・・・これ対応大変そう・・・」と思う点もあります。でもそれって、かつて私たちが乗り越えた「IE6対応」とそっくり(笑)。あのときも不便さに苦しみながら、柔軟に対応してきたじゃないですか。あの頃の『ノウハウと根性』があれば、メタバース制作も十分こなせると思っています。

【おわりに】メタバース普及時代に備えて

メタバースについて発信を始めてから、実際に体験し、空間を作り、複数のプラットフォームに公開してきました。その中で強く感じたのは、「今はまだ静かな分野だけれど、確実に未来の波が来ている」ということです。スマートフォンが普及する前、インターネットが一般的になる前も、似たような静けさがありました。けれど気づけば、私たちの暮らしや仕事の中心には、それらが当たり前のように存在しています。メタバースも、そうなる日がそう遠くないと実感しています。

もちろん、現時点ではハードルも多くあります。VR機器の普及、通信インフラの進化、ユーザー側の認知など、乗り越えるべき壁も少なくありません。ですがそれ以上に、メタバースが持つ「直感的な伝わりやすさ」や「リアルタイム性」には、情報発信やビジネス活用の新しい可能性が詰まっています。だからこそ、私は今後もこの分野に注目し、試行錯誤しながら情報収集・発信を続けていきたいと思います。今はまだ『静かな未来』かもしれませんが、いずれスタンダードになるそのときに備えて。

牛屋ちゃんねる

著者情報
ペンネーム:たけだおうし
職業:Webデザイナー・ディレクター
職歴:牛丼屋の正社員→広告会社→Webコンサル会社→フリークリエイター
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(C)たけだおうし / USHIYA
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